戦略設計

台湾・香港の訪日冬季旅行市場|雪の魅力を地域の売上につなげるインバウンド戦略

カテゴリー:インバウンド戦略 / 中華圏マーケティング / 地方創生・DMO

日本の冬には、雪景色、温泉、冬の味覚、イルミネーション、そしてスキーやスノーアクティビティなど、訪日外国人客を惹きつける多様な魅力が存在します。

しかし、地方自治体やDMO、宿泊・観光事業者が直面する本質的な課題は、「これらの魅力を発信すること」ではなく、「発信した情報を実際の来訪と地域での消費(売上)にどう結びつけるか」という点にあります。SNSでの拡散やインフルエンサーの起用は認知拡大に有効ですが、「知ってもらうこと」と「買ってもらうこと」の間には、戦略的な設計が不可欠です。

本稿では、特にリピーター層が厚く、冬季旅行への関心が高い「台湾・香港市場」に焦点を当て、日本の冬の魅力を単なる観光PRで終わらせず、地域の収益源として確立するための事業設計のステップを解説します。

1.台湾・香港は「日本を知り尽くした」成熟市場

インバウンド戦略を立案する際、まず前提として押さえるべきは、台湾と香港が非常に成熟した訪日市場であるという事実です。観光庁の2025年のデータによれば、訪日4回以上の旅行者は台湾で約63%、香港では約75%を占め、さらに10回以上のヘビーリピーターに限定しても台湾で26.4%、香港では38.4%に達します。

また、個別手配(FIT)の割合は台湾で77.5%、香港では90.5%と極めて高く、旅行代理店主導ではなく、旅行者自身が情報収集と比較検討を行い、旅程を組み立てる構造が定着しています。

このデータが示すのは、彼らに対して「日本には雪がある」「温泉がある」といった一般的な認知訴求を行う段階はすでに終わっているということです。彼らはすでに主要都市や有名観光地を経験しています。今後必要となるのは、一般的な認知拡大ではなく、「今回、なぜその地域を選ぶのか」「なぜその体験に時間と費用を投資するのか」という明確な来訪理由(動機)を設計することです。

2.冬の旅行ニーズを「スキー」に限定しない商品設計

日本の冬の観光と聞くと「スキーインバウンド」を想起しがちですが、東アジア市場のニーズをスキーのみに限定することは機会損失を招きます。

訪日旅行者全体における冬の関心事を見ると、温泉、自然景観、郷土料理、そして「さっぽろ雪まつり」に代表される冬季イベントへの関心が高く、台湾市場においては「雪の大谷」や「流氷」といった雪や氷の景観そのものを楽しむ旅行形態も人気を集めています。

同じ家族旅行のグループ内でも、求める体験は均一ではありません。子どもは「初めて雪に触れること」に価値を感じ、大人は「雪景色を見ながらの温泉や美食」を求め、その中の一部が「本格的なスキー」を希望する場合があります。

札幌市のスノーリゾート戦略においても、雪の体験を一つに固定せず、「初体験」「観光との組み合わせ」「本格的な雪体験」と異なるレベルの体験価値を想定しています。スキー場、ホテル、飲食店、観光施設がそれぞれ「自社は顧客の冬の滞在において、どのフェーズのどのような価値を提供できるのか」を再定義することが、冬の市場を拡大する鍵となります。

3.台湾と香港の市場特性の違いを理解する

台湾と香港はともに個人旅行の比率が高い市場ですが、消費行動や旅行形態には差異が見られます。

例えば、同行者の構成比では、台湾は「家族・親族」での旅行が44.7%と高い一方、香港は夫婦・パートナー(21.0%)や一人旅(21.0%)の割合が台湾よりも高く分散しています。また、1人当たり旅行支出においても、2025年実績で台湾が約18万4千円に対し、香港は約22万6千円と高い水準にあります。

現場の定性的な知見として、同じ「食の魅力」を訴求する場合でも、台湾の顧客は「調理のライブ感や体験のプロセス」を重視する傾向があるのに対し、香港の顧客は「支払う価格に対する品質の合理性(コストパフォーマンス)」を厳しく評価する傾向が指摘されています。

このように、言語(繁体字)は共通していても、価値を感じるポイントや意思決定の基準は異なります。さらに、旧正月(春節)や学校休暇など、時期によって同行者の構成が変わるため、「台湾・香港」とひとまとめにせず、「いつ、誰が、誰と、どのような旅を求めているのか」を細分化して捉える必要があります。

4.「見てもらうこと(認知)」から「買ってもらうこと(売上)」への転換

SNSの再生回数向上やインフルエンサーによる拡散は認知獲得に貢献しますが、それ自体が即座に予約(売上)に直結するわけではありません。旅行者は認知から予約に至るまでに、「アクセスの難易度」「予約の手軽さ」「価格に見合う価値」「自身の旅行スタイルへの適合性」を厳格に比較検討します。

Googleなどの旅行者調査でも、予約前に「最善の選択であるという確信」を得るために旅程を変更・再検討する層が多数存在することが示されています。

どれほど魅力的な雪景色を発信しても、予約サイトの多言語対応が不十分であったり、二次交通の案内が複雑であったりすれば、旅行者の意欲は購入手前で離脱(カゴ落ち)してしまいます。情報発信(プロモーション)と並行して、その後の検索、検討、予約決済に至るまでの導線(ファネル)を緻密に設計し、各段階での障壁を取り除くことが、プロモーション投資を回収するための前提条件です。

5.冬のインバウンドを「売上」に変える5つの戦略ステップ

地域や企業の魅力を実際の消費へとつなげるためには、以下の5つのステップを順守した事業設計が求められます。

① ターゲットの明確化

「台湾・香港市場」という広範な括りではなく、「初めて雪を見る子連れの台湾人ファミリー層」や「高品質な食と温泉を求める香港の夫婦」といった具体的なペルソナを設定し、彼らが次の訪日に何を求めているかを定義します。

② 商品・体験の再設計

既存の資源(雪、温泉、食)をそのまま提示するのではなく、設定したターゲットに合わせて組み合わせ、「どのような時間を過ごしてもらうか」という価値(パッケージ)に昇華させます。

③ 予約・受入環境の整備

台湾・香港のFIT層はオンラインでの情報収集・予約が主流です。多言語での予約システムの導入、オンライン決済の完備、二次交通の明確な案内など、購入に至るまでのフリクション(障壁)を排除します。

④ 適切なチャネルでの集客(プロモーション)

ターゲット、商品、受入環境が整って初めてプロモーションを実施します。「どのSNSを使うか」を起点とするのではなく、ターゲットのカスタマージャーニーに合わせて、検索エンジン、予約サイト、小紅書(RED)、動画プラットフォームなどを戦略的に活用します。

⑤ データ転換の計測と改善

プロモーションの結果を「リーチ数」で評価するのではなく、公式サイトへの流入数、予約ページへの遷移率、最終的なコンバージョン(予約完了)率といったファネルごとの数値を計測し、離脱箇所を特定・改善するPDCAサイクルを回します。

まとめ:資源を「体験」に組み立て、確実な収益動線を描く

冬のインバウンド戦略において重要なのは、「雪があること」そのものではありません。その資源を用いて、台湾・香港の成熟した旅行者に対し、誰に、どのような滞在価値を提供し、いかにしてストレスなく購入・体験してもらうかを設計することです。

自治体、宿泊施設、観光施設が単独で完結するのではなく、地域全体でこの5つのステップ(ターゲット設定・商品化・受入整備・集客・改善)を連携させることで、初めて地域の魅力が持続的な売上へと結実します。

Sunflower Luでは、台湾・香港市場における深い顧客理解を基盤とし、商品・体験の設計から、多言語対応、SNS・インフルエンサーを活用した集客、そして最終的な予約導線の構築までを上流から支援しています。冬季インバウンドの売上拡大やプロモーションの実効性向上に課題をお持ちの企業・自治体様は、ぜひご相談ください。